大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ネ)908号 判決 1975年10月08日

控訴人 三重証券株式会社

右代表者代表取締役 稲垣作哉

右訴訟代理人弁護士 大橋光雄

同 三島駿一郎

被控訴人 山砥皓

右訴訟代理人弁護士 濱岡計

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、その認否は、次のとおり附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決二枚目裏一行目に「とある」とある次に「行の借方欄に記載の」と挿入し、原判決三枚目表二行目に「利益は」とあるのを「利益について」と訂正し、同行に「日のころ」とある次に「その行の借方欄に記載の金額を」と挿入し、同表三行目に「原告に」とあるのを削除し、同行に「原告は」とあるのを「原告が」と訂正し、同表七行目の挿入部分に「△印の」とある次に「付されている項の」と挿入する。

(控訴人の主張)

一、控訴人は、原審において、被控訴人が控訴人との間で被控訴人主張のような取引をなし、被控訴人主張の利益をあげた事実を認めたが、これを撤回し、右被控訴人主張事実を否認する。本件取引は、真実は控訴人会社外務員山本辰雄が被控訴人名義の取引口座を利用して取引していたもので、被控訴人は山本に対し名義を貸していたにすぎない。

二、仮に、被控訴人主張の本訴債権が認められるとしても、控訴人は、昭和四九年一二月一一日午前一一時の本件口頭弁論期日において、控訴人が被控訴人に対して有する次の損害賠償債権をもって、被控訴人の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。すなわち、被控訴人は、昭和四二年五月から昭和四四年五月までに行われた本件取引の決済について、昭和四六年八月に初めて異議を申立てた。もし、被控訴人がもっと早期に異議を申立てていたならば、控訴人においてもしかるべく証拠を保全し、場合によっては山本に対し責任を追及することもできた筈であるのに、被控訴人の異議申立が遅れたばかりに、控訴人はなしえた筈の山本に対する責任の追及ができず、そのため少くとも被控訴人の本訴債権と同額の損害を蒙った。そして、被控訴人がこのように異議申立を遅延したのは、被控訴人の過失に基づくものであるから、控訴人は被控訴人に対し右損害の賠償を請求しうる。

(被控訴人の主張)

一、控訴人の主張第一項における従前の主張の撤回は、自白の撤回であるから異議がある。本件取引が山本と控訴人の取引であるとの主張は、否認する。

二、控訴人の主張第二項は、否認する。

(証拠) ≪省略≫

理由

一、控訴人は、原審において被控訴人が控訴人との間で本件取引をなし、被控訴人主張の利益をあげた旨の被控訴人主張の事実を認める旨陳述したが、当審においてこれを撤回し、右被控訴人の主張事実を否認すると主張する。しかしながら、控訴人の右陳述の撤回は、自白の撤回になると解されるところ、控訴人は原審においてした右主張が真実に反し、錯誤に基づいてしたものであることを主張せず、また、これを認めるにたる証拠もない。かえって、≪証拠省略≫によれば、被控訴人が控訴人との間で本件取引をなし、その主張の利益をあげたものであることを認めることができるから、控訴人の自白の撤回は、許されないものというべきである。したがって、本件請求原因事実は、全て当事者間に争いがない。

二、そこで、弁済の抗弁について判断する。

原判決添付別表(一)(二)の△印の付されている行の支払分合計四四万三一五七円については、当裁判所も、控訴人の弁済を認めることはできないと認定判断するものであって、その理由の詳細は、次のとおり附加訂正するほか、原判決四枚目表二行目から原判決六枚目表六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決四枚目表三行目から四行目にかけて「結果」とある次に「当審における証人村上昇の証言、被控訴人本人尋問の結果」と挿入する。

三、次に、控訴人の相殺の抗弁について判断する。控訴人は、被控訴人の異議申立が遅延したために、山本の責任を追及することができなくなったことにより損害を蒙ったと主張するが、山本の責任の内容、具体的損害の発生原因などについて主張、立証しないので、その余の点について判断するまでもなく、右抗弁は採用できない。

四、そうすると、控訴人に対し本件取引による利益金四四万三一五七円及び右金員に対する催告より後の日である昭和四六年一一月一一日から商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は、全て理由がある。したがって、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 満田文彦 裁判官 真船孝允 小田原満知子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例